有り余るスギが高級木材に 先端技術で木が化ける:日経新聞

京都府立大学と奈良県森林技術センター、バルセロナトレード日本事務所(岡山県津山市)は共同で、針葉樹材を高品質木材に改質するケボニー化と呼ぶ処理をスギに適用できる可能性が高いことを確認した。日本で十分に利用されていないスギ材の付加価値を高められれば、林業を活性化し、建築や住宅分野での国産材利用を後押しする可能性が出てくる。

左がケボニー化処理を施したスギ材で、右が高級樹種であるチーク材。見た目の風合いは似ている(写真:日経 xTECH)

左がケボニー化処理を施したスギ材で、右が高級樹種であるチーク材。見た目の風合いは似ている(写真:日経 xTECH)

■自然素材で改質

ケボニー化とはカナダのニューブランズウィック大学で開発され、ノルウェーのケボニー社が実用化した技術だ。トウモロコシの穂軸やサトウキビの搾りかすを原料として生成したフルフリルアルコールを木材に含浸、熱を加えて重合させる。すると、細胞壁内の空洞にフラン樹脂が詰まって密実になり、木材の硬さや腐朽に対する抵抗性が上がる。

ケボニー化処理で生じる化学反応。京都府立大学の資料を基に日経 xTECHが作成

ケボニー化処理で生じる化学反応。京都府立大学の資料を基に日経 xTECHが作成

木材をケボニー化処理する工程。京都府立大学の資料を基に日経 xTECHが作成

木材をケボニー化処理する工程。京都府立大学の資料を基に日経 xTECHが作成

針葉樹は成長速度が速い半面、強度や耐久性に難がある。これは国内に大量に存在するスギの流通が進まない一因となっている。付加価値が低くて価格が安く、森林から切り出しても採算が取れないのだ。

ケボニー化の技術を針葉樹材に使うと、強度や耐久性を向上させて、付加価値の高い広葉樹材のように改質できる場合がある。「場合がある」と表現しているのは、樹種によって改質の効果を期待できるものとそうでないものが存在するからだ。

■3倍の硬さに

樹脂を木材に含浸させて改質する技術自体は、既に日本国内でも利用されている。しかし、使用する樹脂はフェノールをはじめ、化石燃料に由来するものに限られていた。ケボニー化を用いれば、含浸させる材料を植物から抽出した材料に転換できる。現在はトウモロコシやサトウキビを用いているものの、「製材時に発生したおがくずなどを使用することも可能だ」(京都府立大学の宮藤久士教授)。

京都府立大学などがスギのケボニー化による材料特性の変化を確認したところ、平均的な重量は78.1~95.5%増加した。さらに、ケボニー化処理を施したスギと無処理のスギについて、気乾状態から飽水状態にして寸法変化率を比べたところ、ケボニー化処理を施したスギでは0.77~1.79%だったのに対し、無処理のスギは1.8~5.88%と大きくなった。

ケボニー化に伴う重量の増加率。物性評価用試験体(対面まさ目、接線方向23mm×放射方向23mm×繊維方向400mm、30体)、耐朽性評価用杭試験体(対面まさ目から追いまさ目、木口断面30mm角×長さ600mm、15本)、耐蟻性評価用杭試験体(同、長さ400mm、15本)で計測した。京都府立大学の資料を基に日経 xTECHが作成

ケボニー化に伴う重量の増加率。物性評価用試験体(対面まさ目、接線方向23mm×放射方向23mm×繊維方向400mm、30体)、耐朽性評価用杭試験体(対面まさ目から追いまさ目、木口断面30mm角×長さ600mm、15本)、耐蟻性評価用杭試験体(同、長さ400mm、15本)で計測した。京都府立大学の資料を基に日経 xTECHが作成

ケボニー化をした場合としない場合のスギの寸法変化率。気乾状態から飽水状態に含水率を変化させて測定した。京都府立大学の資料を基に日経 xTECHが作成

ケボニー化をした場合としない場合のスギの寸法変化率。気乾状態から飽水状態に含水率を変化させて測定した。京都府立大学の資料を基に日経 xTECHが作成

 

ケボニー化処理を施したスギは、強度も高まった。硬度を示すブリネル硬さが、まさ目面では、無処理のスギに比べて3倍の15N/平方ミリメートル(mm2)を記録した。加えて、腐朽に対する性能をオオウズラタケとカワラタケの菌を用いて検証したところ、無処理の場合は腐朽による重量減少率が41~60%となったのに対して、ケボニー化したスギでは1%以内に抑えられた。試験はJIS(日本工業規格)K1571に基づく方法で実施した。

ケボニー化したスギと無処理のスギのブリネル硬さの比較。京都府立大学の資料を基に日経 xTECHが作成

ケボニー化したスギと無処理のスギのブリネル硬さの比較。京都府立大学の資料を基に日経 xTECHが作成

ケボニー化したスギと無処理のスギの腐朽菌による重量減少率の比較。京都府立大学の資料を基に日経 xTECHが作成

ケボニー化したスギと無処理のスギの腐朽菌による重量減少率の比較。京都府立大学の資料を基に日経 xTECHが作成

 

■国内でも採用する例

この検証結果を基に、宮藤教授は「日本固有の種であるスギは、ケボニー化に適している」と分析する。既に、国内の住宅と店舗のウッドデッキにおいて、ケボニー化処理を施したスギを用いた例も出てきた。

ケボニー化したスギ材をウッドデッキに用いた例(写真:バルセロナトレード)

ケボニー化したスギ材をウッドデッキに用いた例(写真:バルセロナトレード)

欧州では、ラジアタパインやオウシュウアカマツといった木材をケボニー化処理した製品が、ウッドデッキや建物の外壁などに使われている。年間2万立方メートルの生産能力を持つ工場に加えて、2018年9月には新たにベルギーの工場が稼働を始めたという。

現状では、日本国内にはケボニー化の処理ができる工場は存在しない。そのため、現段階における国内での普及促進は難しい。そこで、バルセロナトレードでは、ライセンス契約の締結などによる国内生産の可能性を探っている。現在国内で樹脂を使って改質している木材と同等以下の価格での販売を目指す。

ケボニー化処理を施した木材については、最大で30年間の品質保証を付けているという。しかも、基本的にメンテナンスフリーで構わない。「公共施設をはじめ、国内で木材を使用する機会が増えている。ただ、メンテナンスについては不安の声がある。ケボニー化した木材であれば、そうしたニーズに対応しやすい」。バルセロナトレード日本事務所の小原冨治雄代表は、こんなふうに説明する。

(日経 xTECH/日経ホームビルダー 浅野祐一)

[日経 xTECH 2018年11月2日付の記事を再構成]