全ての建物に構造計算を -熊本地震の被害状況から- 山岸飛鳥:木の家プロデュース 明月社

山岸飛鳥氏ブログ「反戦な家づくり」より転載

http://sensouhantai.blog25.fc2.com/blog-entry-1501.html

 

標題の「全ての建物に構造計算を」という文字を見て、??と思った人も多いだろう。
構造計算してない建物なんてあっていいの? と。

それがビックリ、2階建て木造住宅のほとんどは、構造計算はされていない。
3階建ては義務だけど、2階建てまでは任意なので、ほぼ全てが構造計算無しで建てられている。

建築基準法でそのように決まっているので、違法でも手抜きでもない。
建物の大きさによって筋交い(耐震壁)の量や金物の使い方が決まっているだけで、それで本当に足りているのかとか、柱や梁の大きさは大丈夫か、とかの検証はされていない。

もちろん、建築基準法の規定はそれなりの実験などから決められているので、法律通りに建てられていれば ただちに影響はない。
しかし、イザという時にどうなんだ、ということが、熊本地震で明らかになってしまった。

熊本地震では、実は建築業界では驚愕の事態が起きてしまった。
それは、「耐震等級2」の家が完全に倒壊した という事件だ。

「耐震等級2」というのは、上に書いた建築基準法の規定よりも、25%増しの強さにしてあり、それ以外にも色々と強度をバージョンアップしたもの。住宅の品質確保の促進等に関する法律という長ったらしい名前の法律で決められている。(略して品確法)そのバージョンアップ住宅が倒壊してしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詳しいことを知りたい方は、上写真をお借りした日経のサイトを見ていただきたい。写真をクリックするとリンクしている。

 

私自身も、いつも耐震等級2で構造計算をしているので、これは衝撃のニュースだったが、原因を詳しく知るにつれて、なるほどと思えてきた。

ここでは、ザックリとその原因について書いておきたい。
①軟弱地盤だった
②熊本県は地震が起きにくい地域に指定されていて、そもそも基準が低かった
③耐震等級2ではあるが、構造計算をしていなかった

①については、この地域が阿蘇山の火山灰地層でもともと軟弱な上に、この住宅の宅地は5mほど盛り土をしていたので、かなり軟弱な地盤だったのは間違いない。建築基準法では、軟弱地盤の場合は耐震壁を5割増しにせよ、となっているのに、この住宅ではしていなかった、というのが指摘されている。

ただ、杭は施工されているので、必ずしも設計ミスとは言えないし、また、地面の表層が軟弱だからといって家が壊れやすいとは限らない、という調査結果も出ている。
ので、これが一番大きな原因だったとは考えにくい。

②については、火の国と言われる熊本がなんで地震おきにくい地域に指定されているのか理解に苦しむが、国の規定でそうなっている。今回の震源地域は、普通の地域の90%の耐震強度でOKということになっている。
だから、25%増しの耐震等級2も、実際は1.25x0.9=1.125 で12.5%増しでしかなかった。

地震予知なんてまやかしだと言うことを如実に語っている。
ただし、これも目減りしたとは言え、12.5%以上は割り増しされているのだから、倒壊した主要因とはならない。

③について。耐震等級2の認定には、構造計算をするやり方と、しない簡易のやり方がある。
この住宅は、簡易のやり方で認定をとっていたようだ。

その結果どんな問題が起きたのか、下の図を見るとよく分かる


(日経ホームビルダー2016年7月号より)

これの右下の表に注目。この家の設計を、構造計算にかけたらどうなるか、というもの。黄色いところがNGになった項目だ。なんと、ほとんどの項目でNGとなっている。

細かい説明は専門的になりすぎるので省くけれども、構造計算無しでOKの建物でも、構造計算すると軒並みNGになり、そして本当に倒壊してしまった、というのが、この耐震等級2住宅の倒壊事件なのだ。

じゃあ、すぐにでも全ての建物に構造計算を義務づけたらいいじゃないか、と私も思う。
けれども、国交省はこれから数年間すったもんだ専門家を集めて議論をするだろうが、全建物義務化にはしないだろう、おそらく。
なんでか
構造計算技術者の人材不足、審査する会社の体制、そして工務店の保護のためだ。

しかし、必要なことは、ナショナルミニマムとして国が責任を持たなくてはならないはずだ。
設計や審査をする技術者の養成、工務店の教育は、自衛隊がアメリカからオスプレイを2~3機買うくらいの予算で充分おつりが来る。

また、構造計算にかかる費用については、ちゃんとお客さんからもらえるように公定価格にすることも考えるべきだ。
でないと、およそ2~30万円ほどかかる諸々の追加費用を「値引き」させられて、多くの工務店は行き詰まってしまう。

原発を平気で再稼働させてしまうようなこの国が、そこまで本気で住宅の安全を考えてくれるのか、かなり怪しいものだが、どっちにしても、当面は構造計算が義務化されることはない。

まず、自分の身は自分で守ろう。