SSD製材手法
芯去り製材

名称未設定

上は、昨年(2013年)5月撮影の、芯去り製材を施した梁桁等平角材試作品の写真で、梁背240、300、360の3種類を夫々2本ずつ並べたものです。見て御判り頂けるように、美しい色をしている上、節・割れも少なく、非常に高い意匠性能を有した製品に仕上がっています。そして、部材への印字をご確認頂ければ、全てE-70の強度を示しています。この製品のもう一つの特徴として、これだけの付加価値製品(高強度&高意匠性能)が、様々な背景の事情により一般的KD材(人工乾燥材)と遜色ない価格で提供出来る事です。この芯去り製材は、別頁で解説している大径材丸太状熱処理が実現した事により可能となりました。ここでは、様々な効用をしめすSSD芯去り平角製材について説明します。

 

芯去り製材手法は従来から存在した技術

関係者の方ならご存知でしょうが、芯去り製材とは特別新しい製材法ではありません。従来から、高意匠性能獲得が可能なゆえに、無節等の化粧用製材を製造する際に用いられてきた手法で、主に和室の柱などに活用されてきました。その後、これら化粧用材需要が単板貼集成材に取って代わられたあげく、和室そのものの需要も減少して、今ではこの製材法をこなす製材所が減っています。

当時、この芯去り製材による化粧材が、低い歩留まり率や手間がかかる事、高意匠の付加価値を訴求して高価な製品であった事が、集成材へ移行した要因でありますが、推定する原価から考察すれば、些か高すぎる価格だったとの感想を持っています。しかしながら、歩留まり率が低いのは事実で、安価な販売は不可能でした。

この低歩留まりは、丸太熱処理の頁でも取り上げている木材の内部応力による反り曲がりの発生が主な理由です。内部応力には成長応力、木理、あて等様々ありますが、その代表的なものが成長応力です。他の頁とも重複しますが、この成長応力の概要を説明します。

名称未設定1樹木は、基本的に太りながら上へ伸びます(成長)。つまり内部には外へ外へと成長する応力が常に存在しています。その樹木が姿形を維持して立つためには、これに反作用した逆方向への応力も存在していなければなりません(本当はもう少し複雑になりますが)。木材を仮に真っ二つに割った(製材)としましょう。その片割れでは、外に対する応力と反する内向き応力のバランスが崩れて外向きの応力が勝る事は、なんとなくではあっても御理解頂けると思います。成長応力による反り曲がりは、このバランスの崩れにより主に外方向へ向かって発生します。そしてこの内部応力は必ず樹木に存在し、それに伴う形状変化も必ず発生します。しかもそれは、製材後の乾燥収縮時に発生するとは限りません。それこそ、製材時に鋸が入った途端に曲がり出します。この内部応力による反り曲がりを極力抑制するための製材法が、一般的に用いられている「芯持ち製材」です。ここでそのメカニズムを詳しくは述べませんが、芯(髄)を中心としてシンメトリーに似通った物理特性が存在する木材の特徴を活かした製材法です。

 

芯去り製材は上記の内部応力の影響をまともに受けて酷い程の反り曲がりが発生します。通常はそれを見越して、一旦、完成品寸法よりも大きく(それもかなり大きなサイズで)製材し、一定程度乾燥が進んだところで、その曲がりが発生した分を修正曵きと称して削り取ってしまいます。別名大鋸屑・鉋屑製造工法とも言える程に削らなければなりませんが、この分増し寸法で補えない程の反り曲がりが発生してしまうと、その部材は不合格品となりその時点で除外せねばなりません。このように如何にも不経済な製造法ゆえ、化粧材等付加価値材採取の場合のみにしか採用されませんでした。

一般的に、芯去り材は「暴れにくいおとなしい材」と言われます。しかし、それは修正曵き等の丁重な製材を施して乾燥させた後の話です。製材時には上記の理由から反り曲がりとの戦いなのです。

当方が開発した「大径材丸太状熱処理」を施す事で、この芯去り製材を一般的製材法と同様の効率性で行う事が可能になります。製材前の丸太の状態で熱処理を行い、その時点で木材の内部応力を緩和するわけですから、その後、どの様な製材を行おうとも内部応力由来の反り曲がりは抑制されます。それは芯去り製材に限らず芯持ち製材であっても同様です。

次に、当方が梁桁等平角材の製造に芯去り製材を採用する事の根拠としての効用を説明します。

 

SSD芯去り製材がもたらす効用

梁桁等平角材における高強度化

名称未設定3右上の模式図は丸太の断面に部位の強度分布を示したものです。図にあるように、芯(髄)を最小として外に行く程強くなります。中心部と最外部においての強度の対比は1:3程度であるとされています。

右下の図は上記の強度分布図に、一般的な芯持ち製材と、同寸法の平角材を大径丸太にて芯去り製材した場合を書き込んだものです。芯持ち製材の場合は高強度部位が上下に僅かにあるだけで、しかも上部と底辺で破断されています。対して、芯去り製材の場合は部材における高強度部位の割合が多くなり、それが上下に繋がっています。当方の試作品で確認したところ、芯去り製材の方が、JAS規格で定められるヤング係数区分において、概ね1ランク上がることが確認されています。

 

 

 

 

干割れの軽減と節抑制による高意匠性能

名称未設定5右上の写真はSSD芯去り製材と芯持ち製材の木口部分を比較したものです。御覧頂ければ、干割れの有り・無しが明確にお判り頂けると思います。

この干割れとは乾燥収縮に伴い発生しますが、芯持ち製材の場合は年輪が連続して繋がっており、これが収縮に伴って破断するのが干割れです。対して、芯去り製材の場合は、破断すべき連続する年輪が存在しません。したがって材全体の収縮で納まります。

ちなみに、この干割れは製材の基本的強度に対して影響を与えるものでは有りません。その事はコチラを参考にして下さい。しかしながら、ユーザーからすれば、実際の割れを目の当たりにした時には不安を感じます。以前には、干割れが強度に影響しない事を啓蒙する取り組みも行いましたが、芳しい成果は上げられませんでした。自分がユーザーの立場になって考えてみれば、この割れを受け入れられないことは容易に理解出来ます。そこで干割れを抑制する製造法を考えた末に、現在のところの到達点が芯去り製材です。

大径丸太から芯去り製材を行う場合には、基本的に元玉と称する樹木の根元部分の丸太を使用します。この部位で芯去り製材を行った場合に、木表側には殆ど節が出ません。木裏側には出てきますが、それでも芯持ち製材と比べれば僅かです。そのうえ、材芯温度80度という低い温度で熱処理を行うため、木材そのものの色や木肌が保たれています。高温乾燥で発生する変色とは無縁です。くわえて、球磨杉は九州材にしては美しい色をしていて、吉野材の様な赤身を帯びた美しい色をしています。丸太熱処理による芯去り製材品は、これらの事から高い意匠性能を有する部材の製造法なのです。

大径丸太の有効活用

現在、南九州地区特有の課題として、大径丸太の活用に関する問題が存在しています。樹木が直径400㍉以上に成長すると、一定規模以上の製材所で主流となっているオートメーションの製材機(ツインソー)での施業が出来ません。大きすぎて生産ラインに投入出来ないのです。これは合板工場でも同様です。それにより当該地区では大径丸太が売れないと言う問題に直面しています。売れ残る丸太は最終的に破格値でチップ用材として処分されます。

一昔前ですと、梁桁材や無節化粧材等の付加価値材が採取出来るため最も高価な価格で取引されていた部位でしたが、上記の理由で売れない事により、林家収入減収の一要因となっています。この問題は現在のところ九州南部に限られていますが、やがて10年程後には、人工林の高林齢化に伴う大径化により全国的な問題となる事を想像します。当方では、この大径丸太を、右図のように芯去り製材にて有効活用する事で、この問題の解決が図れるものと期待しています。

名称未設定31なにしろ、上で述べたように高強度・高意匠性能の付加価値大型平角材が、一本の丸太から2本も取れるのです。そのうえ、主要な部材を製材する時に発生する端材から大鋸屑に至るまで熱処理されており、それらは自然に乾燥材となります(煮干し効果)。端材からは板材や小割材が採れ、大鋸屑はペレット等の材料となりますが、これらの従来の製造において厄介であった乾燥行程を省略出来るのです。

丸太熱処理によって実現した高効率の芯去り製材が、乾燥に掛かる経費を抑制しながら大径丸太の有効活用を可能にしたうえ、それらが付加価値製品として安定供給が可能なのです。一見、夢の様な話ですが現実なのです。