雑誌:建築人 2009年6月号 寄稿記事 日本の常識は世界の非常識 中村暢秀

日本の常識は世界の非常識

SSDプロジェクト会長 中村暢秀

合板建材卸商 株式会社紅中(べにちゅう)代表取締役会長
大阪府木材連合会副会長、日本合板商業組合副理事長
国産材品質表示推進協議会:SSDプロジェクト会長
 

  表題の言葉は、竹村健一氏によって広められた流行語ですが、わが国の木造住宅について語る時 ぴったりの言葉です。

 建築士の皆さんは、快適で、安心、適宜に手入れをしておけば、長持ちし、資産価値も上がって ゆく建物を作ろうと常日頃、努力されていると思います。しかし、現実には、市場に供給されてい る住宅の大半が、その理想とは程遠く、特に木造住宅は、購入時の価値が最高で、後は劣化が進む いわゆる消耗品といっても言いすきではない代物です。等価交換価値は全くありません。

 大半の建物は、購入すると同時に値打ちがどんどん下がってゆきます。購入したばかりの建物を、 鑑定評価に出してみれば、たぶん15%から20%、場合によってはもっと低い評価しか得られない はずです。なぜなら、当初の販売価格の中には、その建物が完成するまでの様々なロスがしっかり と組み込まれているからです。わが国において、中古住宅の流通がながなか本格化しないのもこの あたりに大きな原因があると思います。

 良識ある建築士の方々が関わられた建物は、そこまでひどくはありませんが、一般的な中小の工 務店によって提供される建物の多くは、目を覆いたくなるような無駄、ロスの塊と言っても言い過 ぎではありません。材料のロス、職人の手持ちなどの段取りロス、材料の手配ロスなどの時間ロス 等、数え上げてゆけば限りがありません。品質的にも今ひとつです。

 基準法が強化されて来ましたから、最近はだいぶ改善されていますが、耐震ひとつとっても、ま だまだ不安要因が多く、夏涼しく冬暖かいをうたい文句に掲げる温熱環境については、これはもう 全くといってよいほど満足なものはありません。それだけの機能を充足させることの出来る技術力 を持った業者は非常に限られています。この点をカバーするために、最近は外断熱が大流行ですが、 単価を上げず、安く仕上げることのできるグラスウールによる充填断熱で十分な機能を出せる技術 が、すでにいくつも開発され証明されているにもかかわらずです。要するに、こと住宅については、 提示された価格に応じた品質は得られない、その上に、先に述べた様々なロスを含んだ価格ですか ら等価交換など夢の話なのです。

 これは、注文建築の話で、建売分譲になると話はもっとひどいものになります。なぜなら、わが 国における分譲住宅の大半は、そのほとんどと言ってもよいと思いますが、建物を売るより土地の 売買に重点を置く、不動産業者によって供給されています。建てられる建物は、大半が下請け業者 によるものであり、彼らは建築についての意思決定権を持っていません。したがって建物について の品質が、ニの次にならざるを得ないというのも事実です。

 いまだに、住宅の販売は、場所と値段と見かけが重要なポイントである。中でも、場所がよけれ ば馬鹿でも売れると豪語する業者が多数存在しています。このような業者によって供給される建物 に品質など求めるほうが無理というものでしょう。建売分譲住宅を購入する人たちは、品質が保証 されない上に、ムダ、ムリ、ムラの3Mつき商品を手にしているということになります。

 日本はものづくり大国、工業生産において世界に冠たるものを誇っているにもかかわらず、こと 住宅について言えば、それは別世界の話です。確かに、建材、住宅設備機器などの工場生産品は、 その生産工程において、3Mを限りなくゼロにする努力を重ね、品質第一を掲げて作られています。 しかし、それらが住宅建築の現場に届けられたが最後、今までの努力が全部無になってしまう悲し い運命にさらされていると言うのが現実です。

 一方、プレハブなど、大手企業によって供給されるものは、さすがにここまでひどくはありませ ん。機能的には十分に考えられ、品質についても、保障付で、しっかりしたものです。材料的にも 十分に吟味され満足すべきものが供給されています。ただし問題があります。あちこちにある工場 経費、展示場経費、間接部門を抱える本社経費等、購入者にとっては余分な経費が価格の中に沢山含まれています。また、プレハブとはいえ工場で作っているのはあくまでも部材であり、部品です。 施工は現場施工ですから、現場では一般工務店同様の一品生産です。人材が揃っていますから、品 質、工程管理等に配慮はされているでしょうが、先に述べた現場で発生するロスについて言えば、 町場の工務店のものと五十歩百歩です。

 住宅というものは、それぞれの現場で一品一品作り上げてゆく、単品生産方式をとらざるを得な い、そこに量産効果を求めることは出来ないのです。量を販売しても安くならないという宿命を負 っています。ということは、大手の供給する建物もまた、消費者にとっては、その建物が持ってい る品質、機能以上の価格をつけられた高い商品を買わされているということになってきます。要す るに、日本の住宅には、市場に出される商品について当然であるべき、等価交換の原則が効いてい ないのです。高い対価を払って購入する消費者、施主にとっては、悲劇といわざるを得ないのがわ が国の住宅事情、日本の常識です。自分の生命保険を担保に組んだ住宅口ーンを長年にわたって支 払い続け、払い終わった時の建物の価値がほとんどゼロ、わが国の住宅の寿命が23年から25年 というのも肯けます。価格の表示についても、いまだに坪いくらで中身の基準はありません。個別 注文生産ということで、同じ坪40万円でも日本全国その品質はバラバラ、地域が同じで隣合わせに 建てられていても中身が違います。これを誰も不思議と思わないのが不思議です。

 わが国の住宅の大半が、ロスの塊で、実質の価値が低いというこの現実に対して、供給側にかな りの責任があるのは当然ですが、一方の消費者、施主にも大いなる責任があります。住宅建設にお いて、ものづくりにとって当然のことであるべき一番大事なことが欠けています。注文住宅の場合、 基本になる設計図書が最後まで確定しないのが普通です。中途での設計変更、仕様変更が当たり前 のように発生します。途中で変更をすれば材料手配や職人手配の遅れが発生し、現場が混乱し、工 程が遅れ、結果最終的に高いものにつくということが無視されています。上棟日までは工程どおり に進むのに後は遅れて当然、契約時に決められた日に引渡しが行われるものは皆無という現実にそ れは示されています。これは、住宅供給の業者が多すぎるということもあり、供給側は、常に、は じめに受注契約ありきで行動し、建物の詳細については後でつめましょうという商習慣から来てい るのと、最初に詳細を決めず、途中で変更すれば高くなるということを伝えきらずに、「顧客満足」 という美名の下に 「顧客言いなり」になっていることに原因があります。

 2000年に品確法が施行され、住宅の性能表示、品質保証が当然というのにいまだに普及しな いのもここに原因があります。日本の住宅を値打ちのないものにしている原因は、供給側、購買側 ともにある訳です。これを解決するには、需要が今以上に少なくなり、消費者の目が品質や性能保 証ということにもっと目が向いて来る迄、待つしかないでしょう。また、住宅を建てる場合、建築 士を介在させその指導、アドバイスを受けたほうがよいものが手に入るということを人々が気づく 必要もあります。建築士のみなさん方も住宅にもっと目を向け、消費者に対し自分たちの存在を積 極的にアピールすべきではないかと思います。

 わが国の住宅には、材料面でもうひとつ大きな問題があります。建材や、設備機器については品 質、機能ともにいろいろと創意工夫がなされ年々よいものが発売されています。しかし、構造材と しての木材には多くの問題が存在します。

 日本の森林は国土の66%を占め、わが国は、世界でも有数の森林国です。しかし、現在その森 林が放置され、国としての貴重な資源が捨て置かれています。森林を保全する人が少なく、産業と して成り立っていないのが現在の日本の林業の状況です。

 先の大戦で日本の森林は、軍需用材としてその多くの木材が切り出されました。戦後は復興資材 としての需要をまかなうために使い果たされました。建設ブームに乗ったこの頃の林業は大変裕福 な産業でしたが、この好景気も長くは続きませんでした。東京オリンピツクや大阪万博などのビッ クイベント、高度成長期の旺盛な住宅建設需要を受けて、時の農林大臣河野一郎氏の主導により輸 入関税ゼロという極端な自由化が1960年に決定されて以来、当時86.7%であった木材自給率 は、一貫して減り続け、現在では20%を切る事態にまで追い込まれています。自由化当初から最近までは米国から大量の木材が輸入され、現在ほ地球の反対側である北欧から集成材が遠路はるば る送られてきています。

 当初これらの外国産材は国内産材の不足を補うものとの位置づけをうたっていましたが、政府の 打ち出した「林業基本法」など地域林業活性化のための政策は、林業の実態とはそぐわず逆に足を 引っ張る結果となっています。また、プラザ合意後の円高により価格面で優位に立つ外国産材は 年々国内産材を押しのけ続けています。林野庁の政策は現実を捉えたものではなく、近代化を捻じ 曲げる捕助金政策の乱用により、劣勢に立たされる材の下落に影響を及ぼし、林業を営む者の収入 は減り続け、森林の維持管理に携わる人も少なく、近年は高齢化も進んでいます。

 わが国の数少ない資源である森林なのに、その森林を保全する人が減り続け産業として成り立っ ていない。これが日本の森林および林業の状況です。日本で使用される木材の80%が海外から輸 入され、そのうち建設やインテリア製品に使ねれる量は40%程度、後の60%は紙や燃料などに使 われているという認識が国民にほとんどないのも問題です。「木が好き」「住宅は木造がよい」と アンケートをとるごとに回答する国民なのに森林に対する認識は非常に薄いようです。

 戦後、荒廃した森林回復のため、また、拡大する木材需要を満たすために、杉や、ヒノキなどの 針葉樹の大規模な植林が行われ、わが国の森林面積の40%が人工林で占められています。人工林 は、下草刈り、除伐、間伐、枝打ちなどの手入れが必要なのですが、国産材の需要が低迷している ために手入れが出来ず、成長の遅れた細い樹木が日本全国いたるところで密なままに放置され、森 に光が入らないため下草が生えず表土が流出した状態になっています。こうした状況は、木材資源 の有効利用が出来ないばかりでなく大雨による土砂崩れなどの風災害、病害虫に弱い山林を生み出 しています。国内林業の崩壊は、伐採後の再造林が行われずに放置されているという事態も招いて います。大切なわが国の貫重な資源の実情はこのようなものです。

 国産材の不振の原因は多々ありますが、捕助金の支えによって林業が営われているために、農業 同様大変ゆがんだものになっている事もその一つです。山の人たちは川下の需要家に目が向いてい ません。施主である消費者に対しては勿論、直接の需要家である工務店がどのような商品を求めて いるか等考えてみようともしていません。山から切り出して原木市場に出せばそれで終わり、また、 製材所は製材所で丸いものを四角に引いておしまい。材木屋は材木屋で八百屋と同じ一日も早く売 りさばかないと生木を製材したままの木材は割れが入りひん曲がって売り物にならぬと工務店に 押し付ける、従来腕のある大工はそれを上手に木遣い木配りしてそれなりの建物に仕上げる術を持 っていたのですが、組み立てしか出来ない昨今の大六や大五の腕にはとてもムリな相談です。

 また、最近の北欧からの、集成材の大量流入は、近年のプレカット全盛がその大きな理由ですが、 シロアリ被害など全く考える必要のない国では価値ある材であっても、高温多湿のわが国でこのよ うな材が有用である訳がありません。しかし、安くて見かけが良いためにいまや主流の構造材とし て重宝されています。肝心の国産材の世界では、材を乾燥させ、強度や乾燥度を表示し、品質を保 証した商品を出荷しなければならないと言う意識が欠けています。新築の需要減がはっきりしてき た今、業界がこの問題点に気づき、改善努力をし始めてはいますが、需要側からの要請が弱いこと を良いことに、多くの業者は従来からの慣習を続けています。

 質の高い住宅を作るためには、この構造材に対して、消費者や建築士の皆さんが、もっと強く品 質保証された国産材の供給を求めていただくことが早道です。特に、建築士の皆さん方に問題意識 を持っていただきたい。でないと日本の住宅品質の向上はまだまだ先のことになってしまいます。 住宅建設において一日も早く日本の常識が世界の非常識でなくなる日の来ることを願う次第です。

                            2009年 建築人「6月号」より