では、どのような乾燥方法を用いれば、この木材の宿命とうまく付き合うことができるのでしょうか。

まず、天然乾燥というのがあります。この乾燥法は、太陽の力を借りて乾燥させるのですが、太陽の力だけでは含水率15%までは乾かず、15%になるまでには、柱の大きさですと、3年ほどかかります。これでは時間がかかりすぎるので、人工乾燥という方法があります。人工的にボイラーで沸かしたお湯の力で木材を温め、高い温度で一気に乾燥させます。これは、外から蒸気の力で木材を暖めて加熱して、蒸気としてとばします。天然乾燥で厚さ5㎝の板を乾燥していると、春、夏、秋、冬、それぞれの季節に乾燥をスタートし、放っておくと、春に乾燥をスタートしたものなら3ヶ月ほどたってやっと18%になります。夏に乾燥をはじめても18%をやや切るぐらいです。秋冬ですと、18%の断水率をさらに抑えるには、1年、もしくは2年ほど、かなりの時間がかかります。ですので、木材として使われる天然乾燥のものは、18%ほどしか乾いていないということです。ところが、JASでは15%という規定があります。天然乾燥には限度があるということです。

ここに、人工乾燥の機械、装置があります。箱があって、そこに木材を積み込んでゆき、蒸気を吹き込んだり、あるいは蒸気からでてくる熱を利用して木材を暖めたりすることで乾燥させるという方法をとります。このように、蒸気の力で空気を温め、その空気で木材を乾燥させています。つまり、外からエネルギーを加えて、外から乾燥させてゆきます。それに対し、高周波というのを使うと、電子レンジの理屈と同じで、中から乾燥させます。この高周波と先ほどの蒸気を合体させてできたのが、複合乾燥機です。この乾燥法なら、中からも外からも乾燥させられます。これが、今一番合理的だといわれている乾燥法です。現在は、このような乾燥法で建築材を乾燥させています。

ところが、ただ熱を加えればいいというわけではなく、樹木から切り倒された時点で木は死んでしまってはいないので、なかなかうまく乾燥させてはくれません。乾燥すると割れの現象がおき、表面割れや内部割れが起きます。あるいは、高い熱をかけすぎると、熱で木材自体が劣化してしまうこともあります。

実際に、これが、芯を真ん中に含んだ芯持ち正角材という、柱に使う材料なのですが、いずれも割れています。普通に乾燥すれば、中心に芯を持った柱は必ず割れます。割れない木材も稀にありますが、その場合は別の問題を抱えていると考えられます。

大きな割れが出ると、柱に使ったときに弱いのではないか、と普通は考えます。しかし、実際に柱には昔から背割りという、表面から芯までを一か所だけを予め切れ目を入れて、他の面が割れない様にする方法を用いていました。最近は、背割りというのは入れないですが、昔はよくありました。というのも、割れるのが分かっているならば、最初から割ってしまい、他の面が割れないようにすればいいと考えたのです。

現在は、この割れというのは業者から弱いのではないのかと言われました。そこで、調査してみた結論、表面割れがあっても、強度は落ちないということがわかりました。これは多くの実験を行い、そのデータから結論として出てきたものです。

例えば、表面割れができたものを、割れを下・あるいは上に向けておいて、上から重石をのせます。この状態で観察すると、割れの長さが、ここでは0.6とでていますが、0.1まであり、ほとんど横一直線で、割れが大きかろうと小さかろうと、強さには関係ない。これは、割れたもの、柱に、上から力を加えて圧縮したときの強度です、これが割れの長さで、これが圧縮の強さです。どのような程度の割れであっても、強さはほとんど変わらないです。というように、表面割れと強さはほとんど関係ありません。なので、割れというのは一種の傷ですが、傷があるから弱いというわけではなくて、一般的な評価として、見栄えが悪いということです。

しかし、割れているということは、よく考えてみれば、よく乾燥されているということです。これは、割れが品質保証をしてくれているということと、同じようなことではないでしょうか。つまり、割れというのは強さの裏返しです。これは曲げ強さや、圧縮強さにはほとんど関係ないという結論につながります。

しかしながら、多くの人には理解しにくい上、やはり、見た目に問題がある。そこで、表面に割れが出ない乾燥法というのが考え出されました。それが高温乾燥という乾燥です。ところが、何度も述べているように、木材は乾燥すると縮みます。その縮む力が大きくなると、最後は割れます。ところが、割れないというのはどういうことかというと、表面割れはできないけど、内部割れができるということです。

写真では、このようなところに内部割れができます。つまり、表面割れができるか、内部割れができるか、どちらがより合理的かという問題です。表面割れは、強度にはあまり問題ありません。では内部割れはというと、一見、外から見るとどこも割れていません。しかし、切ってみると中が割れています。そして、こちらは天然乾燥で、天然乾燥は表面割れができますが、内部割れはできません。ところがこの高温乾燥は、ここに筋が見えていますが、これが、切ってみて初めてわかる中の割れです。そして、もうひとつ言えることは、天然乾燥は色がきれいなことです。高温乾燥は色が焼けたように見えます。

この内部割れというのは、外から見たらわからないですし、強度を測る機械で測ると、むしろ高温乾燥したものは強く出ました。そのため、今一般的によく使われていますが、ひとつ問題があります。それは、内部割れがある材料の場合、その方向に穴を開けて、ボルトを指して留めて、そのボルトの方向が割れの方向に入っていると、ボルトに力が入ったときに、裂けてしまいます。ということで、これは、乾燥法も考えなくてはならないということです。

ここにお見せするのは、板の乾燥したものです。こちらは普通に乾燥したもの、こちらは120度以上の高温乾燥したものです。ちなみに、こちらは、乾燥の速度が非常に速いです。ところが、問題点は、この変色に見られるような、材質の劣化です。早く乾燥し、そのコストも安いですが、建築材としてはやや問題があります。

この高温乾燥した材料を、上から重さをかけて折ったときの状態の写真ですが、普通、木材を折ったときはささくれがたち折れますが、高温乾燥するとささくれがたたずに、ボキッと折れてしまいます。そこに、平面状の破壊と書いてありますが、これをJJ破壊といって、もろくなって破壊しています。これは、一体何が問題なのかというと、粘り強さがないという点です。粘り強さがなければ、例えば、地震や台風などで、突然力がかかったときに問題が生じます。

このように、乾燥法の違いによっても、木材の材質が違ってしまいます。ですから、乾燥すればいいということだけではありません。しかも、正確な木材の乾燥が大切なことです。木材の基本的な強度は、含水率が30%という乾燥させながらも結構水を含んだ状態で使用しても、未乾燥材とまったく変わりません。ところが、含水率が30%を割ったとたんに、木材は強くなります。そして、もとの水を含んだ状態に比べて、だいたい1.5倍くらい強くなります。ですから、木材は乾燥させて使うことで、寸法変化が少なくなり、強くなります。そのような木材で家を建てると、より安心な家づくりが可能となります。これらの事を、家を建てる前に知っておく事と、知らないでは大きな違いです。私自身は人生で3回家を建て、3回目でやっと満足できるような家が建ちました。