日本は豊かな森林資源に恵まれた国です。しかしながら、現在の状況は、この資源を放置したまま、木材需要の大半を輸入に頼っています。これにより、日本の林業が立ち行かなくなり、管理の行き届かなくなった森林の環境は、厳しい状況に晒されています。これは、近年、大雨による土砂崩れなどの災害が頻発している事と無関係ではありません。

又、毎年春先に、多くの人を悩ませる「花粉症」の原因の一端ともなっています。私達は、国産木材が使用されなくなった状況を反省する立場に立って、これまでの問題点を検証し、その需要を拡大させることの必要性を迫られています。そして、これらの課題を克服することで、環境的見地からも経済的見地からも、良好な循環を促し、後世へ引き継いでいく使命をおびています。この事は、一長一短に成果を上げることは困難ですが、早急に着手しなければならない状況に追い込まれているといえます。

 

日本の森林面積は2500万haも有り、国土の67%を占めております。このうち天然林は1400万ha、人工林は1100万haで、この人工林に占める杉の割合が58%、桧が20%、カラマツ9%となっています。

現在、この人工林が非常に危機的な状況に陥っています。輸入材の増加に伴う需要の低下で、国産材の価格と生産量は1970年をピークに下りだし、2000年の時点で木材需要にしめる国産材の割合は18.4%、生産量は1960年の37%にまで減少しました。その結果、林業就業者が減少し、高齢化などの要因も加わり、林業が立ち行かなくなっています。

 
「日本の国土に占める森林割合とその内訳」
 

1997年の「第三回気候変動枠組条約国際会議」において、日本は京都議定書のCO2削減目標に批准した事は多くの方々が御承知の事と思いますが、その後、森林立国である日本が、CO2の森林吸収分(最大1300万炭素トン)の緩和を受けている事は案外知られておりません。但し、この森林とは管理森林である事が条件となっており、日本は国際社会に対して、森林の適切な管理を行う事を約束しているのです。

林業の衰退に伴って、人工林の多くが適切な森林経営がなされないまま、放置されるようになり、1997年の農林省調査で、木を伐採後、植林をしていない林家・団体が70%にも上っていたことが確認されています(特に20ha未満の零細林家が多い)。伐採の後、植林されずに放置された山は、荒れた藪や猛烈な勢いで繁殖する竹林に姿を変えます。又、間伐作業が行われていない森林では、隙間なく植林された杉や桧が発育不全を起こし、山の荒廃と生態系の破壊を招き、土砂崩れを起こす原因にもなっています。加えて、戦後の政策により急速に拡がった人工林の大半が伐採時期を迎えており、この膨大な量の杉・桧を、資源活用をせずに放置している事が、春先に多くの人を悩ませる花粉症の要因となっています。花粉症は自然環境破壊の一現象であり、日本の林業や森林の環境が厳しい状況にある事を物語っています。

管理されずに荒れた森林(写真左)
管理された健全な森林(写真右)

過去に、環境破壊を伴って無秩序に植林・拡大された人工林が、今は、豊富に存在する資源の木材を活用する事無く放置していることで、再び環境に負荷を与えている状況を早急に改善しなければなりません。その為には、国産木材の需要を改めて創設し、林業の再興をはかり、森林への適切な管理運営をおこなう事が必要です。

 

このサイトを御覧の方の中には、木を伐採する事が、環境面に良い結果をもたらすことに疑問を感じられる人も居られるでしょう。ここでは、それらの事について説明をさせていただきます 。

木は成長期に光合成を行い、その際に二酸化炭素(CO2)を吸収して酸素を吐き出します。ですが、成長期を過ぎ成熟期に入ると、光合成の減少と共にCO2の吸収の量も減ります。加えて、木も生き物ですから、酸素を吸って二酸化炭素を出します。又、花粉症の一因である「花粉」もこの成熟期に発生します。

日本の国土の30%を占める「人工林」に於いて、適切な管理を行い(管理森林)、木を育て(CO2吸収)、時期が来れば伐採して建設資源等として活用し(CO2の固定化)、また植えて育てる(新たなCO2吸収)、この効率の良い循環を促す事が、CO2排出の削減に貢献するのです。又、この循環を計画的に行うことで、木材は無限の資源となりうるのです。

伐採された木材は、資源として活用する必要がありますが、木の形のまま長期にわたり使用することにより、木材自体が体内に吸収したCO2の貯蔵庫としての役割を果たす事になります。パルプや燃料等の原材料として使用し、短期間で焼却して空気中にCO2を戻すよりは、建築等で長期にわたり使用することが、環境問題の上で望ましいことなのです。日本の森林がためている炭素の量は8.7億トン、住宅としては1.4億トンと言われています。

木材は加工が容易なため、その過程で大きなエネルギーを必要としません。そのエネルギー使用量は合板生産の1/6、セメントの1/30、鋼板の1/60程度です。また、木材はリユース(再利用)が可能な資源です。リユースしない場合でも燃料になります。この時、CO2は大気中に戻りますが、これは空気中のCO2を吸収固定していた物です(カーボンニュートラル)。化石燃料を使用し、新たなCO2と有害物質を排出する事とはわけが違います。

木材を使用することに於いて、外材(輸入材)を使用することは、地球規模での循環を促しているように思われますが、輸送時に大量の化石燃料を使用することや、日本の森林の荒廃を招いている事などから、国産材に比較して、環境への負荷が大きい物と断言します。

国産材を活用する上で、木を伐ることが環境を破壊している訳ではありません。木材を資源として有効に活用する事が、森林の循環を促し、環境問題に対して大きく貢献出来るのです。又、国産木材の産地の大多数は、疲弊した地方経済圏の中にあります。木材を通して、産地(地方)と消費地(都市部)を結び、林業の活性化を計ることは、近年問題になっている地位間格差の是正にも貢献できると信じています。

 

戦後の復興期から高度成長期にかけて、国産木材は、需給バランスの不均衡から高騰し、実態を伴わない高価格を維持していました。人工林の拡大(植林事業)が盛んに行われたのもこの時期です。時の政府は、社会からの要請や諸外国からの圧力等により、安定供給(価格及び物量)の木材を求めて、関税を非課税とした木材の輸入に踏み切りました。その後の為替の自由化や円高等もあって、外材(輸入材)は一層の価格的優位性を保持して現在に至ります。尚、木材輸入に関する関税の非課税措置は現在も継続されています。

国産材の価格高騰時期は、木材提供者にとっては、伐り出せば高値で売れる良い時代でありました。しかし、それが異常な状態にまで拡がり、需要者にとっての不利益になっていたことは事実であります。これは筆者の所感ではありますが、国産材関係者が、この異常な時期を経験したがため、生産の意義・概念と消費者への意識が欠落してしまった事(事業の社会的貢献への意識の欠落)が、現在の国産材及び林業の窮状を招いた根本的原因の一つであると考えています。

国産材の高コストの原因として、日本の山の地形的条件(急勾配での作業の非効率)や人件費の問題等が必ず挙げられます。加えて、前述の木材輸入の非課税措置も影響しています。但し、これらはあくまでも一因であって、全てではありません。国産材の価格は1970年から下降を続け、今世紀に入ってからは杉の原木丸太価格が北米材(米栂等)の価格よりも下がっているのが現状です。しかし、製材された製品材木は依然高いままの状況が続いていました。これは、国産材関係者が、製造及び流通において、合理性を追求した改革への努力を怠っていたと言われても仕方の無い事実です。

国産材にはコストの問題と同時に、品質性能の問題があります。これは、杉・桧が外材に比べ、品質的に劣ると述べるものではありません。耐久性能においては外材よりも総じて優れている事実があります。製品の製造過程における品質確保が蔑にされている問題点を指しています。

近年の木造住宅建設において、その建物性能確保の為に、乾燥材木の使用が必須となりつつあります。ところが、流通している国産材における乾燥材の割合は30%以下(2010年時点)であるといわれています。対して、外材の大半は乾燥材である上に、集成材化等の技術開発を活かした商品が提供されています。加えて、国産材における乾燥法として、現在、最も一般的な「高温式蒸気乾燥法」は木材自体の強度を低下させる懸念もあり、この問題を解決する技術開発も遅々として進んでいません。

木材は自然の恵みです。それゆえ、均一の品質は望めません。杉を例に挙げると、強度において、桧と同等かそれ以上の強度(ヤング係数:E-110or130)を持つものから、建築基準法で定められている構造用木材の最低強度(ヤング係数:E-50)に満たないものまで、個体其々のばらつきが非常に大きい特徴を持っています。これらを確認する事無く一括に取り扱うことは、建物強度確保の上で不安が生じます。対して、外材(特に構造用材のホワイトウッド、レッドウッド、米松等)は総じて必要強度を備えている上、強度を確認して提供しているケースが多々あります。

国産材が、高価格な上に品質が不明確なことで、外材にシュアを奪われた事が容易に理解できます。たとえ、環境面等でのメリットがあり、輸入材に問題があろうとも、現状においては、需要者(住宅提供者)が外材を採用する事が、ユーザーの利益につながるベターな選択であったことは否めません。ただし、国産材の品質自体に根源的原因がある訳ではありません。日本の杉・桧は非常に優れた森林資源です。要は国産材関係者が木材乾燥や品質確保等の技術開発や、価格を含めた安定供給の為の流通システム構築等の行為を疎かにしてきた事の結果であります。加えて、林業に関する国の方針に一貫性が欠けていたことや、需要者側が国産材活用の必要性を感じながらも安易に外材を採用してしまっていたこと等も一要因でありました。

 

最初に、木材の輸入自体を問題視しているのではない事を御理解下さい。用途に応じた資源を国際社会の枠組みの中で補完しあう事は大きな意義のある事です。ただし、我国の森林資源(杉・桧)を放置したまま外材で賄っている事と、その事が地域地場産業(林業)を圧迫し、尚且つ環境に対して負荷を与えている事が大きな問題なのです。日本の木材自給率は、豊富な森林資源を有しながらも、18.4%(2000年時点)にしか過ぎず、国際的に見ても低水準です。

現在の木材消費量は年間約1億m3、人工林の総蓄積量は21億m3もあり、我が国では数少ない自給可能な資源なのです。又、木材は適切な森林管理を行い循環させることで、無限の資源となりえるのです。この状況下で、八割を輸入に頼りながら、林業と森林環境を厳しい状況に晒している事は異常と言っても過言ではありません。

木材調達(製造及び運送等)にかかるエネルギーの消費量も見過ごせません。国産材の場合を基準にして、米松・スプルス等の北米材は2倍、パイン等のニュージーランド材は3倍、ホワイトウッド・レッドウッド等欧州材は5倍となっています。これらは化石燃料(石油等)でまかなわれていて、CO2排出削減の立場から見れば好ましくない状況です。

東南アジアをはじめとする途上国や旧ソビエト連邦(現ロシア)など、森林管理の不十分であった地域では違法伐採が頻繁に行われ、深刻な森林破壊(環境破壊)が拡がっていました。 これら違法伐採された木材をはじめ、合板やパルプの原料などとして大量に日本で消費されていたことは事実です。

日本は温潤な気候のため腐朽菌が発生しやすく、シロアリ等の害虫も存在しています。又、温暖化が原因と推測されるシロアリの生息分布の北上も確認されています。国産材はこれらに対する対抗性能がありますが、全く風土の違うところで育った輸入材はそれらを持ち合わせていない場合が多々見受けられます。近年、住宅用建築資材として非常に多く使用されているホワイトウッド(欧州トウヒ)を例にあげると、対蟻性能が殆ど無い木材であり、識者のなかには、この木を建材として使用する事を「犯罪行為」と指摘する声もあります。

現在の住宅用構造部材として、このホワイトウッド(柱材等)をはじめ、横架材(梁や桁)としてレッドウッド(欧州アカマツ)ダグラスファー(米松)等が盛んに使用されていますが、どれも、国産杉・桧に比べて耐久性能(防腐防蟻性能等)に劣っています。強い強度性能を有していても、それを維持できなければ、建設用資材としては意味がありません。この事に対応すべく、化学薬品(防腐防蟻剤)に頼っているのが現状です。又、これらは集成材として使用される事も多く、化学薬品と併せて接着剤の使用による、住環境への影響と廃棄処分時のダイオキシン等、環境への負荷が問題視されています。

ホワイトウッド(WW)と杉のシロアリ対抗比較実験:(独)日本森林総研
同条件でWWと杉をシロアリの巣に投入した結果、右の杉にはさほどの変化が見られないものの、左のWWは著しい食害をうけて、原形を留めていない事が見て取れる
 

国産材普及促進の必然性から、国は平成22年度に木材需要における地域材(国産材)のシェア拡大の方針を定めました。内容としては林野庁が、10年後にシェア50%を目指すという目標の設定であります。連動して各種補助事業も開始され、国土交通省も国産材活用の長期優良住宅に対して、一定の条件下で補助金の割り増しを行う事を始めました(長期優良住宅普及促進事業+地域資源活用型対象住宅)。これらの効果で、最近では前述のデータ(木材需要の国産材比率、乾燥材比率等)に拡大傾向が表れてきております。ただし、この傾向はいずれ頭打ちになると当方では推測しています。理由は、国産材が、今まで敬遠されてきた問題点の改善がなされていないからです。事実、これらの措置により、一時的に品薄状態となった産地において、未乾燥の杉の桁材が出荷されているのを目の当たりにしています。これは、長期優良住宅の本来目的(住宅性能確保)に相反する行為です。又、旧態然とした流通システムの中で、補助金獲得の為だけに国産材を採用している状況では、本格的な国産材需要の成果獲得には程遠い現実があります。

SSDプロジェクトは、国産材が持つ優れた特徴が理解され、「信頼」を回復するためには、下記の3項目の実現が不可欠であると考えます。これらの行為を避けては、国産材の本格的需要の獲得は見込めません。

  1. 明確な品質の確保と表示提供

  2. 品質に関しての責任所在を明確にしたトレーサビリティの確立

  3. 安定供給と安定価格を実現するための流通システムの構築

SSDプロジェクトは、最初に木材乾燥の技術開発に着手しました。一定の成果が見込めた段階で、山から建設現場までを、一気通貫の関連異業種による流通システムを構築して安定供給体制を実現し、その後の技術開発で、部材の個体ごとに品質を確認し表示して提供する事を可能にしました(グレーディング表示材)。 その品質表示の際の製品ロットナンバー管理により、伐採時期と地所(山の名称)から製造及び加工、運送に至るまで、関わった全ての関係者を明確に出来るトレーサビリティを確立しています。これまでの開発に7年間の時間を費やしています。グレーディング表示材の提供を開始してからの3年間に約100棟の実績を重ねてきております。このグレーディング表示材をSSDランバーと命名して、更に関連技術等の開発を進めながら実績を積み重ねる事により、ビジネスモデルを確立する事で、国産木材の信頼回復の為の、微力ながらも、一助となる事を切望しています。

当方では、国産木材の信頼回復を得るために需要者(住宅の設計・施工者及び最終消費者)への啓蒙の必要性も痛感しております。この分野での取り組みには、スタートラインに就いた段階で、これから、本格的に努力すべき事項です。まずは、日常活動の一環として行っているグレーディングデータを全て開示する事から始め、次に、その品質の根拠を明らかにし、同じく、その内容を公開します。私共は研究開発で得られた情報を秘匿する事は致しません。情報公開が、商品に対しての信頼を得るための最適手段と考えております。又、内容を理解いただける国産材関係者の方々が、其々の立場で、国産材の信頼回復に取り組んでいただく機会になる事を希望しています。情報公開と併せて、国産木材(グレーディング材)に適した構造計算手法の開発や、効果的な使用方法を提示するための住宅仕様の企画開発等も進めて行きます。これらの行為が、住宅の消費者(エンドユーザー)に、実質的住宅性能の提供に伴う、安全と安心及び良好な住環境の提供を実現し、国産木材への信頼を獲得できるものと確信しております。

 

本格的な国産材需要の拡大、すなわち、国産材活用を広く普及させることで、林業の再生をはかり(産業の育成)、産地を雇用問題等含めて元気にさせ(地域経済活性化、地域間格差の是正)、適切な森林管理を行い(国土の保全と環境問題への寄与)、品質表示木材を品質確保住宅へ提供(CO2排出削減、住宅の長寿命化・ストック型社会形成と循環型社会形成へ貢献)と理想的な連鎖反応(良好循環)を実現します。木は循環を促すことで、無限の資源と空気を与えてくれる地球の宝です。まずは国産木材への信頼を回復させる事から全ては始まります。