中大規模木造は、特別な知見や技術がなくてもつくることができる。都市で木造建築を増やす方法として、東京大学教授の腰原幹雄氏は「市場規模の大きい中層をターゲットにしたい」と言う。

「地産都消」に不可欠な都市木造は
市場規模の大きい中層をターゲットに

東京大学 生産技術研究所木質構造デザイン工学 教授 腰原幹雄氏(撮影:石原 秀樹)

中大規模木造の課題として、いろいろな点で「バランスが取れていない」ことが非常に気になります。

その1つが、木材の需給バランスです。森林資源が豊かな地域は、建築需要が少ない。地産地消と言って各地で木材活用に取り組んできましたが、すでにかなり木造の建物を建ててしまい、限界に近づいています。今後、需要を伸ばすには、本格的な「地産都消」が必要です。

では、地産都消でどんな木造を目指すのか。都市部で建築の市場規模が大きいのは、高さが30mまでの建物です。階数で言えば、3階から7階くらいまでです。このボリュームゾーンを狙えば、都市木造の普及につながると思います。ただし、耐火性能が必要な建物になると、4層までは1時間耐火、5層から14層までは2時間耐火が求められます。つまり、市場規模が大きい建物の木造化は、2時間耐火が求められるケースがかなり出てきます。

こうした耐火性能の分類に、私は中途半端な印象を持っています。例えば、5階から8階ならば、スプリンクラー設備を設けて1時間耐火で建てられるようにするなど、もう少し耐火要件が緩和されてもいいのではないかと思います。

ところで、地産都消と言っても、大消費地となるような都市圏は、それほどありません。遠くの都市まで運べば、輸送費がかかり、建設コストに影響します。

そこで、私が思うのが、全国のブロック分けによる地産都消です。原木の調達から加工、乾燥、製品化までを一貫してこなし、主要都市に供給する体制を、各ブロック内で整えるという考え方です。現状は、特定の木質建材をつくる工場が、近隣の自治体に複数集まっている一方で、全く工場がない地方があります。エリア的な供給バランスが取れていません。

木材の標準化・規格化で
S造のようなモデル化を

中大規模木造は、誰がつくるのか。一般流通材を使う低層木造は、地域の工務店などでつくれます。一方、中高層で大型の都市木造は、組織設計事務所や建設会社(ゼネコン)の領域ですが、十分な担い手がいないのが現状です。鉄筋コンクリート(RC)造や鉄骨(S)造を得意とし、都市型の建築技術を持つ彼らに、広く木造をつくってもらうにはどうしたらいいのか。

カギの1つは、部材の「標準化」、「規格化」です。標準品が分かっていれば、そこから設計に入り、構造や意匠などの必要に応じて部材を変えて設計を詰めていけるようになります。材料が規格化されれば、構造をモデル化でき、構造解析ソフトで計算できるようになります。

こうした設計は、ゼネコンなどがRC造やS造でいつもやっていることです。それと同じように標準化・規格化を図り、情報を整備すれば木造をつくりやすくなるでしょう。また、木造で難しいのは接合部のモデル化ですが、それについても、林野庁の補助事業として、私たちが整備している「設計支援情報データベース Ki」で提供しています。

都市木造は、伝統木造や在来工法の木造とは異なる新しい木造です。LVLやCLTなど、新しい木質建材もつくられています。地産都消を目指して都市木造を普及させるには、伝統などにこだわらない姿勢も必要ではないでしょうか。また、コスト最優先ではなく、魅力的な都市木造を社会に示していくことも、木造の普及には欠かせないと思います。