森林技術協会発行誌2016年11月号掲載論文 大径木の有効活用:丸太状熱処理と芯去り製材

大径木の有効活用 〜丸太状熱処理と芯去り製材〜

渡邊豪巳
Watanabe Takeshi
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はじめに

 熊本県球磨郡上球磨地域の林業・木材産業関係者と大阪に本社を置く建材商社:㈱紅中が「国産材•地域材の建築分野での構造材としての活用促進には、品質保証供給が王道である」との思考を共有して連携したのが当会 国産材品質表示推進協議会:SSDプロジェクトです。

 地方の木材産地と巨大消費地である都市部とを一気通貫で繋ぐビジネスモデルを構築することで需要者への品質を含む安定的供給を図るとともに、人口6千人程で約13万立方㍍/年の素材生産実績を誇る林業隆盛地域ながらも、基幹産業の製材業等木材産業の衰退などとも絡み合い、過疎化問題を抱える地域社会への活性化貢献も連携事業の目的に含まれています。

 現在までの到達点として、球磨杉・桧をJAS機械等級区分構造用製材規格にて、関西都市部に供給するに至りました。特に今回は、この商品群の内、梁背300㍉を超える杉平角材を中心に採用している「丸太状熱処理併用の複合乾燥法を用いた芯去り製材手法」を、大径木有効活用の観点から説明させていただきます。

南九州地区における大径丸太需要

今回のテーマの「大径木有効活用」に関して、先ずは、その背景としての現状を述べます。

 樹木成長の早い九州南部では50年超経過の杉の元玉末口は40㌢を遥に超え50㌢クラスも稀ではありません。桧でも30㌢を超えています。これら大径部位は、役物等化粧用材や梁桁材などの付加価値製材品が採取可能で、過去には稼ぎ頭の部位でした。しかしながら、住宅事情の変化による本格的和室の激減や、梁桁材需要の外材・集成材への移行などにより活躍の場を失いました。さらに、40㌢超の丸太は、一定規模以上の製材工場で主流となるツインソー自動製材ラインや、合板製造ラインに投入出来ません。これらを理由に大径材が市場で売れ残る現実があります。当然、相場価格は低迷しますが、価格を下げて売れればまだ良い方で、最終的にはチップ用材として処分されています。これが林家収入を激減させている要因の一つとなっています。この問題•現象は、今の所、九州地区に限られるようですが、今後、全国的な林業課題へと拡大することを想像します。

 元玉大径丸太を、当方の商品開発成果の徹底的有効活用手法にて、丸太平均価格程度での取引を可能にし、山元への還元が図られることを切に願っております。しかしながら、それが当該開発の第一義的目的ではありませんでした。いささかの肩透かしで恐縮ですが、最大目的は九州産杉の品質確保•確認による構造用材等製材需要の開拓です。その取り組みの過程で確立した「丸太状熱処理併用の複合乾燥法を用いた芯去り製材」が、結果的に、需要薄の丸太大径部位の有効活用に繋がったものです。ただし、それ故に複合的な効果・効用を有していることを意味し、未利用木材大径木の活用実績においても期待が持てる、と考える次第です。

熱処理丸太活用の芯去り製材 概論

当該技術の概要は、丸太の時点で燻煙ガスを媒体に活用した熱処理を施して、予め、反り曲がりの原因となる内部応力を緩和しておき、曳き曲がり抑制に伴う高効率な芯去り製材を実現するものです。製材後に中温域での仕上げ乾燥工程を経て確実な乾燥精度の確保を行います。

木材乾燥の前段階での燻煙熱処理や芯去り製材自体は、夫々が既に認知された技術ですが、当方の新規性としては、40㌢を超える杉大径丸太の材芯部までを確実に処理する装置と、その熱処理丸太の特徴を活かした芯去り製材品の製造手法を確立したことにあると考えます。

木材乾燥の固定概念となっている製材後の乾燥工程を、その前後に分離させた複合乾燥法を採用することで、製品歩留り率を飛躍的に向上させ、JAS規格に基づく選別部材ながらも、現実的価格での供給を実現しました。加えて、品質性能確保に後述の芯去り製材効用を反映させた結果、付加価値製材品に仕上げる事が出来た、と自負します。

大径丸太有効活用の観点から述べます。40㌢超の杉丸太から梁背300㍉以上の平角材を複数採取できる上、従来の曳き曲がりを勘案した過大な部増しの必要がありません。さらには、この製材時に発生する端材も既に熱処理•応力緩和がされている上、無節や柾目の製材品が採取可能な部位故に、容易且つ高効率に板や小割りの付加価値乾燥製材品が製造できます。当方では、この端材活用の化粧板にサーモ加工を施した外装材(木製サイディング等)を商品化した上、杉無垢の内装建具や造作材などの試作を進めています。さらに加えて、これら製材品等の加工時に発生する大鋸屑なども熱処理による乾燥が進み、ペレット製造などのバイオマス活用が容易になります。

本来、木材とは余すことなく活用可能な材料ですが、丸太という素材段階で下拵えすることで、余すことなく付加価値活用が可能となる事をご理解ください。

大径丸太の熱処理による応力緩和

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 製材品の反り曲がり発生の主たる原因である内部応力(成長応力等)の緩和に、熱処理が効果を持つことは木材物理の常識です。加えて、木材の乾燥工程において、含有する水分の運動誘発のためにも熱処理は欠かせない行為です。ただし、これまでは断面の大きな部材の芯部までを確実に処理できる装置が見当たりませんでした。

 当方で使用する熱処理装置は、当初、竹炭を製造するために開発された技術を応用しています。

 一般的な木材乾燥機が熱媒体に採用する水蒸気を、熱伝導率が高く(水蒸気の約12倍)、煤(カーボン)の遠赤外線輻射熱効果が期待出来る燻煙ガスに変え、炉内環境をコントロールするための補助バーナーと電子制御装置を付加しています。

 木材の内部応力緩和の条件は、湿潤な状態で材温80度、40時間程度が目安とされていますが、これは内部応力の素となっているリグニンを一度軟化させて、その応力を溶くための必須条件です。このリグニンは湿潤な状態であれば80度程度で軟化を開始しますが、そこに十分な水分がなければ軟化開始温度は上がり、130度程度まで上昇します。従って、伐採直後の湿潤な状態での熱処理が必要となり、葉枯し丸太や置き古し丸太は適しません。

 この熱処理装置での施しの確実性は、熊本県林業研究指導所に依頼して実施した性能評価試験で検証済みです。その実験時の写真が上中央で、その横のグラフが丸太材芯部に打ち込んだセンサーからの材内温度推移の経緯です。庫内各所の温度差が小さく、庫内温度の上昇に伴い材内温度も上がり、その温度差も小さいことがわかります。その結果として、丸太材芯部において80度以上の熱処理が可能なことを確認できました。

 同様の実験を、季節を変えるなどして度々実施し、現在は、獲得したデータを基に装置の運転スケジュールや庫内での丸太の積み方などに改善を重ねて取り組んでいます。

芯去り製材効用

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 九州産杉構造用製材の商品開発に着手した際に、当時一般的な乾燥法であった高温式蒸気乾燥法の内部割れ発生や脆弱性誘発などの強度劣化への対応の必要性を認識していました。これら高温由来の問題に対処するために処理温度を下げれば、強度影響は少ないものの醜い干割れが発生します。

この干割れ対策に着目したのが芯去り製材でした。干割れは乾燥に伴う収縮時に、連続する繊維(年輪)が破断して発生します。その為、材の表面から髄に向かって生じるのが大半です。対して、芯去り製材には破断すべき連続した年輪が存在しません。従って、材全体の寸法収縮で収まり割れの発生は抑制されます。

しかしながら、芯去り製材には前項で触れた内部成長応力の作用により、製材した途端に反り曲がりが発生します(曳き曲がり)。これまではその曲がりを勘案して大きく製材し、修正曳きを繰り返しましたが、材料の極端に低い歩留り率と、かかる手間から、相当な高コスト製造法となっていました。

前項で紹介した丸太状熱処理にて、当方では、曳き曲がり抑制の高効率な芯去り製材が出来ますが、干割れ抑制の他にも有意な効用が存在します。一つは節の抑制で、平角材の木表側には殆ど存在しません。干割れ抑制と併せて高意匠性能が確保できます。もう一点、特筆すべきは、杉平角材の高強度化です。これまで、九州産杉の梁背300㍉以上の芯持ち平角材はヤング係数E-50クラスが大半でしたが、当方の大径木芯去り製材ではE-70を品質基準とします。図にあるように、芯持ち製材は丸太の高強度部位の占める割合が小さく、しかもその部位が上下で破断されています。対して、芯去り製材では高強度部位割合が高いうえ上下に繋がっています。これにより高強度化が図られると考えますが、九州産杉平角材でE-70を明確に確保•表示することは、構造用製材品の商品開発において非常に有利となります。

大径丸太有効活用製材品の品質保証供給意義

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 未利用木材の有効活用に対する真の意味での成果獲得は、製造•供給側のみの都合で進めても結果に期待は持てません。そこに需要者に対しての効用が存在し、それを持ってユーザーからの支持を得て、初めて有効活用の目的が叶います。

当該構造用製材製品は、JAS機械等級区分構造用製材規格にて品質保証供給することで、ユーザーに明確な根拠に基づく安心を提供できると考えます。さらに、需要薄の大径丸太を活用すること、新規開発製造法による製品歩留りの向上、製造時エネルギーを場内発生の端材•木屑を活用したバイオマスで賄って環境負荷軽減と同時の燃料費削減…等々で製造コストを抑えた上、前述の芯去り効用を上乗せして、コストパフォーマンスの高い商品に仕上げることができました。JAS規格の選別部材ながらも、一般KD材と遜色ない価格での提供を実現しています。果たして、ユーザーからの支持を得られるかは、今後の営業行動に委ねられますが、現段階では潜在的なユーザーニーズへの呼応可能な製材製品であると自負します。

ちなみに、巷では、国産製材品におけるJAS規格に基づく品質保証材の供給実績は、極々僅かに過ぎません。社会がストック型への移行を模索し、建物の長寿命化とりわけ耐震性能の明確な確保が求められている情勢下での国産材普及促進訴求・・・。これらの社会的要請に対して、国産JAS製材品不在の現状に、些かの違和感を覚えます。

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 当会の幹事会社を務める建材商社の創業者は近江の出身で、社是の中に近江商人の心得「三方良し」(売り手良し、買い手良し、世間良し)を掲げています。当該取り組みもこの精神に則って国産材普及に努めきたと自負し、これからも真摯に継続する所存です。今後の予定としては、年内に、桧の元玉大径部位からの追柾芯去り正角製材品を、JAS機械等級区分構造用製材規格かつ現実的価格で、供給を開始いたします。