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2012年6月21日
非常事態!! 国内原木丸太価格急落!

今年の国内木材価格(丸太価格)は下落傾向が継続していたが、春以降それが顕著に表面化し、現在の市況は、多方面への影響が危惧される域に達している。宮崎県では県庁内に特命チームを設置して対応しなければならない事態にまで深刻化している。

SSD球磨杉・桧の産地(熊本県上球磨地域)では、現時点(6月)の丸太価格は、杉7千円~8千円、桧1万円前後と、以前から比べ2割~3割程度の下げ幅で推移している。元々が非常に厳しい市況であったために、事業の採算ベースを割り込む事態が推測される。以下に宮崎県の事例を紹介している新聞記事を転載する。

毎日新聞 2012年06月19日 地方版

県は18日、木材価格の急落で県内林業・木材産業が受ける打撃を軽減するため、庁内に「木材価格対策特命チーム」を設置した。同日の県議会一般質問で河野俊嗣知事が明らかにした。

県環境森林部によると、木材価格は2月まで1立方メートル当たり1万円前後で推移していたが、その後急激に下落。3月は8400円、5月は7600円と低迷が続いている。

一般質問で黒木正一議員(自民)は「市場価格を7000円とすると、伐採・搬出の作業費、原木市場に運ぶ運賃、市場手数料などの合計で赤字だ」と指摘。河野知事は「需給バランスが崩れている。特命チームを設置して、木材価格回復に向け、対策を検討したい」と述べた。

チームは、同部技術担当次長ら8人で構成。情報収集や、県事業の発注平準化など、価格下落対策を検討する方針。河野知事は議会後、報道陣に対し「かつて経験したことない下落だ。大変な危機感を持って対応したい」と語った。

県は同日、みやざきスギ活用推進室(0985・26・7156)内に林業・木材産業者向けの相談窓口を開設した。価格急落の影響による経営相談全般に対応する。平日午前8時半〜午後5時15分。

この件に関する宮崎県の公表内用はコチラ

上記記事で河野宮崎県知事は、価格下落の理由を「需給バランスが崩れている」としている。その詳細を確認すべく熊本県林業振興課に問い合わした所、担当者から「需要が弱い所に、国有林からの供給が活発な事と、切り捨て間伐に対しての補助金活用が出来なくなった為に、それら間伐材が市場に流れている。」との説明を受けた。

国有林に関して、最近、活発な供給姿勢が見受けられるが、その施業が入札制度に伴う契約で進められていて、契約期間内で一連の作業を完了させるために、市場での需給バランスに関係なく、供給され続ける事になる。

間伐に関する補助制度は、昨年から、間伐材の搬出を義務付ける内容に変更され、これまで行われていた現地での切り捨てには適応されなくなった。結果、搬出された間伐材が、これも需給バランスに拘らすに市場に供給されている。この事は、森林資源の有効活用を促進する目的で改定されたと筆者は理解しているが、多角的な視点で実情に即した制度設計の必要性も感じている。搬出された木材が売れなければ、間伐自体に対しての取り組み意欲が薄れ、それが山林の環境悪化に繋がる事を危惧する。

SSDの産地での現状価格は、従来のB品(曲がり等)価格と同等になっている。この価格帯の丸太は、これまで、水俣の国産合板メーカーや九州管内の集成材ラミナ工場へ持ち込んでいたが、現在は受け入れを拒否している。これらの大型工場には下記のような事情があり減産体制にシフトしている。

針葉樹合板が1年8カ月ぶり安値 5月末比5%下落

日本経済新聞WEB版 2012/6/19 0:04

住宅の屋根や壁の下地に使う国産針葉樹合板の取引価格が続落し、1年8カ月ぶりの安値をつけた。東京地区の問屋卸価格は現在、5月末に比べ約5%安い。合板製造会社が増産に動く一方、復興需要の本格化が遅れて在庫が積み上がった。

構造用の針葉樹合板の問屋卸価格(東京、12ミリ厚物)は現在、6月上旬比で約2%安の1枚800~810円。2010年10月以来の安値となった。昨年5月の高値(1枚1075円)から25%下落した。東日本大震災後に一部合板製造会社の生産が止まったことで供給不安が広がり、昨年5月まで卸価格は上昇していた。

4月末の合板の在庫量は3月比で約4%増の23万立方メートル(岩手県分を除く)と11カ月連続で増加した。在庫増で、製造会社や問屋の安値販売は増えている。「製材加工会社からの値下げ要求も一段と強まった」(合板製造会社)

林野庁によると、4月の生産量は3月比約2%増。合板製造会社が復興需要を見込んで生産量を増やしたため、3カ月連続で増加した。

国土交通省によると、4月の新設住宅着工数は前年同月比10.3%増えた。大手住宅会社の着工は堅調だが「中小工務店の仕事量が減っており、針葉樹合板の注文も少ない」(建材問屋)という。


このサイトで掲載を始めた『23年度「森林・林業白書」から、林業と木材産業の現状を考察する』の第1回目の記事の中で、国産材の供給実績が増加傾向にあるものの、林業所得は年収10万円と極端に少ない現状を述べている。現在の木材価格はこの異常な状態を更に悪化させるものである。国家の資源と環境に関わる基幹産業であるべき林業が、自立出来ていない現実と、公的支援と林家の兼業化等で生き延びている状況を危惧する。

国有林の旺盛な供給姿勢や、切り捨て間伐の補助制度除外は、国が進める「森林・林業再生プラン」の方針に基づいての行動であると推測する。この方針は、これまでの政権の場当たり的な政策の結果である林業の現実に対して、画期的な理念と長期目標を据えた有意義なものであると評価する。住宅への地域材活用の助成や公共建築物の木造化の法律はこれまでには無かった物である。政権交代の数少ない成果の一つであると言える。

只、惜しむらくは、この「森林・林業再生プラン」が、その運用にあたり、現実を見据えた施策が行われていない現実がある。今回の木材価格急落もその一現象である。林業の再生自立には、供給側の改革も必要であるが、木材の需要開拓を行う事が最初で最大の根源的要素であると考える。供給者もその需要開拓に対しての行為に最大限の努力を行い、その過程で体質改善を進めて行く事が理想である。

誤った運用を継続すれば、木産木材は主要な供給先を、合板・集成材原料やバイオマス燃料等の安価な売り先に限定されてしまい、供給実績量と木材自給率は向上する物の、林業の再生自立は望めない。そして今現在は、その合板・集成材原料としての需要も無い事態である。

木材需要の開拓は、林業・木材産業・住宅産業等の限られた関連産業のみで行えるものではない。長らく続くデフレから脱却する為の成長戦略を優先して行う事を国に希望したい。国の資源や環境問題等根幹部分に関係する森林・林業を再生する為の特効薬は需用である。豊富な資源量を背景にしながらも、その事だけで、産業の体質改善を行う事は非常に困難である。林業を取り巻く現状が今後も継続するようであれば、日本の唯一ともいえる豊富な森林資源も、半世紀後には枯渇する事態を招く恐れがある。

SSDプロジェクトは、微力ながらも、国産木材の信用回復を持って需要拡大への貢献を果たすべく、品質の確保・表示材の供給への努力を、これまでにも増して且つ地道に継続していく所存である。

文責者 SSDP事務局 渡邊豪巳

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