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新春レポートⅡ
国土交通大臣:「持続可能な低炭素社会の構築」を政策に掲げ、次期通常国会に「低炭素まちづくり促進法」の提出を準備

今回、国交大臣が示した「低炭素まちづくり促進法」は、下記の記者会見での発言から、住宅及び建物の省エネ化に照準を絞った法案と見受けられ、昨年の3.11原発事故による国のエネルギー政策の見直しの必要性を反映した物と推測される。しかし、この法案が基本として目指しているのは「持続可能な低炭素社会の構築」である。これは、2009年に策定された「森林・林業再生プラン」やその後の木造化・木質化の推進に関する法律及び、長期優良住宅の普及促進等が掲げていた「持続可能な循環型社会、ストック型社会の形成」と同一の意味を持つものと理解する。単なる省エネ促進法に終わってしまう事が無きように願う。又、いままで掲げていた「循環型社会」の言葉を「低炭素社会」に置き換えたことが、原子力に対する国民感情の緩和を意図したもので無い事も願っている。

2012年1月16日付け 新建ハウジングWEB掲載記事 転記
「低炭素まちづくり促進法」を国会に 前田国土交通大臣

前田武志国土交通大臣は2011年9月の就任当初から「持続可能な低炭素社会の構築」を政策に掲げ、震災後の補正予算でも復興支援と低炭素化を両立する事業を盛り込んだ。来年度もより積極的にこの路線を進めていく考えだ(建設専門記者会による共同インタビュー。構成・文責編集部)。

―持続可能な低炭素社会の構築に向け、住宅・建築分野では何をするか?

前田大臣:ゼロ・エネルギー住宅/建築物の普及を目標に掲げ、現在、施策をいろいろと打ち出しているところだ。まずは、公共庁舎、学校校舎などを率先的に進める必要がある。

これまでも何度か閣僚懇談会で議論をしてきたが、具体的に被災地で住宅のゼロ・エネルギー化のモデルになるような事業展開を図る。そして、そのモデルを全国に展開したい。

学校校舎のゼロ・エネルギー化については、文部科学省と国土交通省とで共管の委員会を立ち上げた。自分の学校がゼロ・エネルギー化されると、生徒もCO2排出抑制や省エネにも興味を持つはず。子供たちの環境教育にも役立つ。

さらに、次期通常国会の提出を目指して、「低炭素まちづくり促進法」を準備している。住宅・建築物についても、新たに税制上の支援を設け、省エネ化を誘導していきたい。

[詳細は新建ハウジング2012年1月10日号に掲載]


この、「持続可能な低炭素社会、循環型社会及び良質ストック型社会の構築」に貢献する住宅建物を実現する事は、これまでの日本に無かった「資産価値のある家づくり」を定着させる事を可能にする。この事は、環境に対する負荷を軽減させる事と共に、ユーザーに対して、ささやかながらも「豊かさ」を提供する事ができる。

日本人の多くは「住宅貧乏」であった。

これまでの日本の住宅の寿命は約30年とされてきた。新社会人が努力して頭金を貯めて30代で家を持っても、住宅ローンが終わり、定年を迎えるころには家の寿命が尽きて、退職金を充てた新たな住宅の手当てが必要であった。30年以上の住宅ローンを組んで、実質価格の倍近い金額を支払いながらも、建物の価値は約20年で消滅してしまう。家を持つことは個人資産を持つ事と誤解している人が多いが、持ってしまうことで支出を強いられるものは「負債」である。更に処分をしてもローン残額が清算できない場合は「不良債権」である。

先進国に類を見ない日本の短命住宅が、その「スクラップ&ビルド」から、これまでの日本経済に貢献してきたことは事実である。しかし、その裏には、「土地神話」(日本の土地の価値は上がり続ける)崩壊以降、勤勉で真面目な国民に対して、「負債」及び「不良債権」を広く押し付けてきた現実がある。この日本において「資産価値のある家づくり」が定着しなかったことは至極当然のことであった。

長期優良住宅の発想は当然の成り行き

数年来、深刻なデフレ不況が続き、多くのユーザーが「負債」を抱えられなくなっている状況と、人口減少や建物ストック(良質とは言えないが…)の過剰状態等、今後の新規住宅需要に期待が持てない中で、国民の住宅に関する負担を軽減し、差額を他の消費に向けて、内需拡大と景気浮揚に努めようとすることは当然である。その方策として長期優良住宅制度が策定された。又、昨年の3.11原発事故由来の省エネ喚起からのゼロエネ住宅等の促進が確実視されている。

長期優良住宅及びゼロエネ住宅が「資産価値のある家づくり」に繋がる理由

仮に一般的な2000万円の家を建てるとする。この建物を長期優良住宅仕様及びゼロエネ住宅仕様にするには別途、約500万円程度が必要となり、総額2500万円になってしまう。これに住宅ローンを利用すれば、実質支払い金額は約5.000万円になる。この上に、長期優良住宅の寿命の目安の100年間の維持経費に、元々の建物金額である2000万円が必要と仮定すれば、総金額は7000万円になり、住宅へ必要な金額の年平均負担額は70万円となる。

対して、2000万円の家を、100年間の間に、住宅ローンを利用して3回取得するとその総額は約1億2000万円となり、上記との年平均の差額は50万円にもなる。これに加えて、エネルギー費用(光熱費)の差額や、一般住宅には維持管理費を計上していない事を加味すれば、その差額はさらに広がる。そして、その差額は100年間にわたり発生し続け、その恩恵の多くは次の世代にまで引き継がれていく。

建物自体の負担にしろ、光熱費にしろ、本来なら支払いすべき金額が、恒常的に軽減されることは、その分の利益を得た事になり、その建物には資産価値がある事になる。上の例でみると、2500万円で取得した長期優良&ゼロエネ住宅が、ローンを使用しながらも、100年間にわたり総額5000万円以上の利益を生み出す資産価値のある家となる。

建物の長寿命化を環境から考える

住宅は人生最大の買い物であると言われている。しかし、同時にそれは、人生最大のゴミでもある。苦労しながらローンを終えたばかりの我が家を、更に費用を掛けてゴミの山にする事が、精神衛生上好ましくないことは容易に想像できる。建物が長寿命になれば、建築主が自らの代で取り壊す場面を見る事は少ないであろうし、その長寿命化が環境面においても好ましい事は当然である。又、取り壊す場合において、リユースや再資源化の容易な木材や自然素材が多く使用されている事が環境への負荷を軽減するためにも望ましい事である。

建物に、鋼材やケミカル製品が使用されている場合には、限りある資源である上、製造時及び再資源化に大量のエネルギーと労力を必要とする。

対して、再生可能な資源であり、リユースの容易な木材であっても、建物寿命が短く、早期に解体するとなると、環境面での良好な効果も半減してしまう。

森林に立つ一本の樹木の内、建材として利用できる部分は50%以下である。杉の生育に掛る期間が50年であることから、単純計算で、建物の寿命が100年程度である事がバランス上好ましい事を理解してもらえると思う。この間、建材に使用された木材は、発育期に吸収したCO2を固定化(貯蔵)し、伐採跡に植えられた樹木が生長と共に光合成をおこない、新たなCO2の吸収固定化を行う。建物寿命が長ければそれだけCO2の削減に寄与できるが、逆にその寿命が短く、50年以下になれば、CO2の増加は無いものの(カーボンニュートラルの原理)、資源の需給バランスを保つ事が困難となる。

SSDプロジェクトの国産木材と自然素材による長期優良住宅

当会は「資産価値ある木の家づくり」を目指して、国産木材と自然素材による長期優良住宅の普及に努めている。長期優良住宅が地震や台風等の自然災害に対しての耐震性能や、経年劣化に対する耐久性能を確保しなければならない事を、既に、多くの方が御存じであろう。これらの性能を確保するには、合板や集成材、或いは防腐防蟻剤等の薬品を使用することで比較的容易に実現可能である。しかし、住まい手の健康を損なう(シックハウス症候群)心配や、薬品や接着剤の環境への負荷を考えた時に、安易な性能確保には安全を棄損する可能性があると考えた。それは、建物寿命が長ければ長いほど、より重要度を増す。本物の安全・安心を提供する住宅は、数字に置き換える事の出来ない価値を内包している真の「資産価値のある家」と確信している。

その実現のために、国産無垢木材の品質確保の技術開発、無垢材や自然素材を活用した建物の品質確保のための工法開発、品質表示木材採用と構造計算(許容応力度計算)実施による明確な建物強度の確保等に努めてきた。又、良好な住環境を確保するための建物内空気環境等も重視してきた。これらの行為に評価を得て「国交省推進:長期優良住宅先導的モデル事業」の採択を受ける事も出来た。これらは、ユーザーに安全安心と快適をそなえた真の「資産価値ある家づくり」の提供と、「持続可能な低炭素社会、循環型社会の形成・構築」への貢献が可能であるとの信念からの行いである。

「低炭素まちづくり促進法」について
2011年12月25日付け 新建ハウジングWEB掲載記事から抜粋
12年度政府予算案、閣議決定 ゼロエネ住宅補助など盛り込む

2012年度の政府予算案が12月24日、閣議決定された。一般会計総額は90兆3339億円と、当初予算では6年ぶりに前年を下回ったものの、東日本大震災の復旧・復興費用を別枠かしているため、これをあわせた実質は、96兆円超となる。・・・・・・

住宅のゼロエネ化を推進する補助事業は、国土交通省と経済産業省が共同で実施する。うち中小工務店のゼロエネ住宅建設を支援する補助制度は、国土交通省が担当し、ゼロエネ住宅建設1戸あたり最大165万円を補助する。経済産業省が実施する補助事業は同じゼロエネ化がテーマでも、省エネ機器やエネルギー管理システムを組み合わせたシステムの導入に対する補助として制度設計。先ごろ行われた提言型政策仕分けでは、両省の事業の類似性が指摘され、窓口を一本化するなど合理化を図った形だ。

地域での長期優良住宅の供給体制整備を支援する「地域型住宅ブランド化事業」は、「木のいえ整備促進事業」の後継事業。これまでと違うのは、材料供給者や施工業者、設計者などが連携して、地域の生産体制を作って供給していく取り組みを補助の要件とする点。補助率などは同じで、地域材を使った場合、最大で1戸あたり120万円の補助を受けられる。


「低炭素まちづくり促進法」(ゼロエネ住宅促進)について、現段階で得られる情報に基づいて考察する。ゼロエネ住宅の定義の概要は、断熱性能の高い建物、省エネ設備機器、創エネ設備の三つのファクターをパッケージにした、高効率な省エネ住宅建物を意味している。具体的には、次世代断熱性能の建物にLED照明やヒートポンプ型給湯器、省エネ型エアコン等を採用した上で、太陽光発電等を設置した建物(あくまでも想定モデルケース)になると思われる。省エネ家電やHEMS等のスマートハウスIT技術は、上記記事によると経済産業省管轄で別枠となるようである。

ゼロエネ住宅の仕様を整えるには、概ね400万円程度のイニシャルコストが必要で、対して光熱費の削減効果は一般的な家庭で年間15万円~20万円と考えられ、単純計算でその償却期間は25年間以上になる。これに機器の維持管理や更新費用を加味すれば、その償却期間は更に伸びる。これでは、今までの住宅寿命30年の建物ではユーザーに経済的メリットは生まれない。投資効率ゼロ住宅になってしまう。ただし、経済的効果を考慮しなければ、このゼロエネ住宅を選択することは、環境面やエネルギー安全保障の上で貢献出来るものではある。

ゼロエネ住宅を「資産価値のある家づくり」に繋げるには、建物の長寿命化が効果的である事を理解していただけると思う。その寿命が長ければ長いほど資産価値は大きくなり、同時に環境的貢献も拡大する。ゼロエネの償却期間から考えても50年程度以上は必要であり、長期優良住宅が目指す100年以上の長寿命化は理想的である。

ゼロエネ住宅と長期優良住宅をセットにした時のイニシャルコストについて考える。先にも述べたとおりゼロエネ住宅のイニシャルコストは約400万円と想定され、長期優良住宅については、現在の新築住宅の実質的な仕様を考慮すれば、一般的には約200万円と推測される。ただし、これらをセットにした場合、断熱性能確保等重複した仕様が存在するために、その合計イニシャルコストは600万円ではなくて500万円程度と考えられる。

ここで注視すべき事は、ゼロエネ住宅を選択した場合に、100万円を増額することで、長期優良住宅をセットに出来る事である。100万円は決して小さな金額ではないが、再三述べてきたゼロエネ長期優良住宅の経済的メリット及び環境面での貢献度を考慮すれば、あえて「僅か100万円」と表現するものである。


ゼロエネ住宅に僅か100万円を上乗せして長期優良住宅をセットにし、国産木材と自然素材を活用した安全安心の、真の「資産価値のある木の家づくり」を行い、孫子に「ささやかな豊かさ」を引き継ぐ事と、後世に「持続可能な低炭素、循環型社会」の実現を託すべく現在可能な貢献に努める事を提案する。

補助金を活用して、更に資産価値を高める

上記のニュース記事にあるように、ゼロエネ住宅並びに長期優良住宅に其々、165万円、120万円の補助金が予定されているようである。長期優良住宅に関してはこれまでもあったが、今年度は縮小傾向の様子で、地域材(国産材)活用の場合にのみに限られるようである。又、その場合でも、かなり高いハードルが設定されている事が読み取れる。幸い、SSDプロジェクトユニオンは条件を満たしている様である。

これまでの考察におけるシミュレーション計算には、これらの補助金は考慮していない。従って、補助金活用が可能であるとすれば、その場合の資産価値はさらに増加する。又、それは、建物の長寿命化に比例して拡大してゆく。

ここで注意すべき事は、2種類の補助金を重複して活用できる可能性が低い事である。基本的に1案件に対して、複数以上の補助制度の活用は禁じられていたはずである。この場合には実質金額の多いゼロエネ住宅を選択する事が一般的になるであろうが、費用対効果が高く、建物の基本性能に関わる、長期優良住宅の制度を先に活用しておいて、後々に太陽光発電を設置する手法も一考の価値がある。太陽光発電は今後も価格が下がり、尚且つ、発電効率が高まる可能性もあり、又、再エネ買い取り価格の動向等も確認する事が可能となる。

本来、「低炭素まちづくり促進法」(ゼロエネ住宅)と「地域型住宅ブランド化事業」(国産材活用の長期優良住宅)は、「持続可能な低炭素社会及び循環型社会の形成・構築」という同一の目標を共有している。目標の合理的な達成には両者を一体のものとして考慮する事が効果的である。この事を、国も理解をして、補助制度に関しても、重複する事を想定に入れた制度設計が行われる事を希望する。いづれにしてもこの事は、今後、注視を払う必要がある上、関係先に対して、早急にアピールすべき事項であると考える。

消費税増税が現実味を帯びてきたこの時期に、住宅の取得を検討される方が相当数居られる事を想像する。それらの方々が、其々の事情に整合した「資産価値のある家づくり」を目指して行動することで、御自身や社会、及び、この国の環境や現状に、好ましい結果をもたらす事を切望する。

SSDP事務局 渡邊豪巳